人を殺したら、その数だけ身体に傷を刻む。
そうして俺は天を仰いで赦しを請う。
もし無事に次の朝を迎える事が出来たら、もう一度光の世界へ戻る事ができる。
必ず通過しなければならない儀式だ。
その儀式の最中、突然に刃を持つ手を抑えられた。
暖かいその手をふり払うと赤い飛沫が勢い良く弧を描いた。
赦しを得るための傷は、俺の身体ではなく別の人間の上に刻まれた。
赦しなら、俺が。
そう言って俺の目の前で鮮やかな血潮を見せてくれた人をどうして愛さずにいられるだろうか。
「be my last」
その日は頭が働かなかった。
殺しすぎたからだ。
「七つ」
神経を傷付けないように、次の任務に支障をきたさない程度に、カカシは自分の皮膚とその下の肉にクナイを突き立て少し力を込めて引き下ろす。
研ぎ澄まされた刃はカカシの身体を滑らかに切り開いた。
パタパタと腕から滴る血はカカシの膝に落ちる。
「八つ」
最後の傷は物心もつかない内に自分の手にかかってしまった幼い子供の為に。
今夜の贖罪の為の傷は片手では足りなかった。
酷い出血の為に意識が落ちそうになる。
意識を保つために長手袋の先の鉤爪をギリと太腿に突き立てた。
「う・・・」
痛みが意識をクリアにさせてくれる。
その途端、自分の愚かさに舌打ちをした。
これほどに血液を失って自分の部屋までたどり着く余力はあるのだろうか。
しかし、里の大門をくぐった頃には気持ちが逸り抑えられなくなっていた。
早く、早く赦しを請わなければ、と。
木の葉の里の中心街から遠く離れた森の中にカカシはいた。
そこはアカデミーの所有する演習場の一つだ。
衝動のままに場所も選ばず自分の身体に傷をつけてしまった。
久しぶりに幼子を手にかけて、忌まわしい高揚感と、それに対する焦燥感に駆られていた。
昔ほどではないが、上忍師となり里に常駐する今になっても暗部の仕事はカカシの元に舞い込んでくる。
部下達に気取られる事なくその度にカカシは手を血で染めてきた。
子供らに命の大切さ仲間の大切さを説きながら、子供達の頭を撫でる手で標的を機械のような正確さで潰していく。
暗部に所属していた頃は割り切っていた。楽だった。
今は、汚れきった自分が再び日の光の中に立つには代償が必要だった。
里に常駐するようになってカカシの自傷行為は歯止めが効かなくなっていた。
それはカカシの心の弱さでもある。
夜が明け始めて、辺りはうっすらと白み始める。
人影がちらつき始める前にここを去らなければ。
ふらつく足に力を入れて何とかカカシは起ち上がった。
酷い貧血でさすがに感覚も鈍っていた。
茂みから演習場に足を踏み出した時にカカシはビクリと身体を揺らした。
人がいたのだ。
こんな夜が明けたばかりの早朝に、人里離れた演習場で誰かと出くわすなど思いもしなかった。
暗部装束に身を包んだカカシは、今は面をはずしていた。
心臓が跳ねる。
朝もやの向こうでばったり出くわした人物はじっとこちらを見ている。
必要があらば、記憶を操作する。
相手の出方を息を呑んでカカシは待っていたが、予想もしない反応に驚いた。
「お大事に」
もやの向こうでぽつりと人影は呟くと、カチャカチャと道具の擦れる音をさせてカカシと反対方向に歩いていってしまった。
それは潔いほどの無関心ぶりで、カカシになど興味は無いのだと全身で現していた。
ともかく今、無駄なトラブルを回避できたのはお互いにとって幸いだった。
カカシはその声に聞き覚えがあった。
novel 2